生産性向上のための活動を継続させるには?

神宮 貴子

神宮 貴子
共愛学園前橋国際大学 准教授

 日本の産業発展を振り返ってみると、特に製造業においては「生産性向上」を目的とし、全社的に様々な取り組みがなされてきました。その結果、日本の製造業は生産性や品質で競争優位性を勝ち取ることができたのです。その後、バブル崩壊やグローバル化、ICT技術革新などの様々な要因と環境変化により、日本の製造業が非常に厳しい局面を迎えた時代が続きました。そんな中でも「生産性向上」に取り組み続け、さらに強い製造現場を作り上げた企業は少なくありません。しかし一方で、生産性向上のためのあらゆる活動に取り組んできたものの、いつの間にかその活動が消滅しているという企業も多くあります。私自身、「改善活動をやってはみたものの、なかなか続かない。」という現場の声を多く聞きます。そこで今回は、活動の失敗例から、活動を継続させるポイントを見ていきたいと思います。

 まず1つ目は、「活動の目的をきちんと定めていない」失敗例です。活動の目的である「なぜ」ということを具体的に示すことなく、「5S活動に取り組むぞ」と大きな号令だけが響いていることはありませんか?はじめはうまくいく(ように見える)かもしれませんが、次第に活動自体に疑問を感じるメンバーが増え、最終的には自然消滅することもあります。前回のコラムでお話ししたとおり、生産性を構成する要素は組織により異なり、生産性向上を実現させるための戦略も異なります。他社の成功事例をそのまま適用してもうまくいきません。まずは自社の生産性の正体を明らかにした上で、活動の目的を正しく定めることが重要です。

 2つ目は、「活動の評価方法を定めていない」失敗例です。大号令の下、なんとなく活動を始めたものの、改善活動への取り組みが会社にとって、組織にとって、自分にとってどんな「うれしいこと」があるのかが目に見えないと、モチベーションの低下を招くだけでなく、活動自体に対する信用低下を招きます。評価には大きく分けて「定量的」なものと「定性的」なものがありますね。たとえば、「不良率」や「稼働率」、「改善提案件数」などは目に見えて分かりやすい定量的な評価です。一方、「チームワークの向上」や「スキルアップ」、「自主性」などは数字では測りにくい定性的な評価です。定量的評価と定性的評価をうまく組み合わせ、使い分け、活動の評価が誰でもわかるようにしておくことが重要です。

 これらの失敗例を見て気付くことはありますか?実は「目的」と「評価」は対になるものであるということです。つまり、具体的な「目的」が正しく定められていなければ、正しい「評価」はできないのです。活動が継続できなくて困っているという方は、活動の「目的」と「評価」について一度見直してみてはいかがでしょうか。

講師プロフィール

神宮 貴子

神宮 貴子 
共愛学園前橋国際大学 准教授

幼い頃から工場が好き。早稲田大学理工学部(現創造理工学部)経営システム工学科にて「工場」を取り巻く仕組みを学び、博士後期課程まで進む(単位取得退学)。

「現場で学ぶ 現場に学ぶ」をモットーに、現在は共愛学園前橋国際大学准教授として教育・研究活動を進める一方で、国内外問わず現場改善・社内教育など多くの企業現場における生産性向上を目的としたコンサルティング活動を行っている。

専門は経営システム工学、サービスサイエンス、生産・物流設計、最適化アルゴリズム等。

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