製品開発を行う前にぜひ考えてもらいたいこと~ビジネスモデルを考える

新井 美砂

新井 美砂
アライビジネススクリード 代表

前回はお客様の真のニーズを捉えて製品開発することの重要性を伝えました。しかし、お客様のニーズをしっかり把握していても、ビジネスモデル(売る仕組み)的に製品を売るのが難しいというケースもあります。これまで企業相手に事業をしてきた会社が、小型機器を製造できる強みを活かして消費者向け携帯型電動歯ブラシを開発したケースがそれです。昼食後、女性がトイレで歯を磨いているのを見かけるからニーズはある。アンケートでも「小さくて静かな電動歯ブラシはいい」と反応も上々。しかし、実際に販売していくのには難があると感じました。それは何だと思いますか?

電動歯ブラシは、プリンターのインクカートリッジやカミソリの替え刃と同じビジネスモデルで、替え刃モデルなどと言われています。本体はできるだけ安く販売し、カートリッジや替え刃のような消耗品で儲けるモデルです。そのためには非常に多くの方に本体を買っていただかなければ、製品本体に係る投資回収は見込めません。また、消耗品を簡単に手に入れられる販路(ドラッグストアやスーパーなど)を持っていなければなりません。つまり、本体を安く提供しても替えブラシで回収できるほどの市場見込みと替えブラシの売場(販路)がなければこの事業は成り立ちにくいのです。実際に金型代を考えると本体価格はかなり高いものにならざるを得ず、それまで企業相手の事業を行っていたため販路のあてもなく、お客様が替えブラシを購入しにくいという事態が発生していました。他に強みが活かされたような製品候補はなかったのかと考えさせられます。

このように、売る時のことを想定しなかったばかりに、売れない製品を開発してしまうという事態に陥っている事例は少なくありません。製品開発時はニーズの把握と共に、「誰に何をどのように売るか」も考慮し、それが自身の経営資源で実現可能か、そこに強みがあるかどうか、収益が出せるビジネスモデルになっているかどうかも併せて考える必要があります。

そこでまず、自社の経営資源の棚卸をしてみましょう。どんな技術やノウハウに強みがあるか、見込客へのアクセスが可能な適切な販路や営業先を持っているか(卸売か小売か直販か、BtoBかBtoCか)、見込み客に合うプロモーション手段がとれるか、安くて良い製品を作ってくれる協力会社とのつながりがあるかなどを考慮したうえで、どのような製品、サービスが妥当かを検討します。次に、どんなビジネスモデルにするかを考えます。先述の替え刃モデルのほか、例えば主製品の付属・関連製品を次々開発・販売して収益を得るモデル、製品貸与により継続的に収益を得るモデル、ノウハウ売りのモデル(製品はそのためのツールとして活用)などです。

もし、製品ありきの開発に思い当たる節があるなら、ぜひ販売までを想定して開発するよう意識を変えていきましょう。

講師プロフィール

新井 美砂

新井 美砂 
アライビジネススクリード 代表

損害保険会社でシステム開発に従事したのち、油圧機器製造販売業や工業用接着剤製造販売業を営む外資系企業、およびITベンチャー企業にて、経営・マーケティング戦略立案、新事業部の立ち上げに従事する。
平成19年、中小企業診断士の資格を取得後、開業。マーケティング戦略を軸にしたコンサルティング、および研修・セミナーなどの関連業務を行い、現在に至る。中小企業診断士、1級販売士、PMC。

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